交響曲「大地の歌」について私的考察

 2006年9月  伊藤伸介
わたしはクラッシク音楽について,造詣が深いわけではなく,わずかな知識しか持ち合わせませんが,過ちは覚悟のうえで,交響曲「大地の歌」にご興味をもたれた方のために,あえて考察をしたいと思います.わたしは下記の演奏会にマンドリンパートで出演します
「大地の歌」演奏会ご案内
日時 2006年10月8日 日曜 午後3時30分会場 午後4時開演
場所 名古屋市民会館大ホール 名古屋市中区金山1丁目

  • 作曲者グスタフ マーラーについて
作曲をしたグスタフ マーラーは1860年ボヘミア(現在のチェコ共和国)に,ユダヤ人の家庭に14人兄弟の第2子として誕生しています.ただし彼が生まれたときはすでに長男すでに死亡していました.父は御者,つまり運送業者を営んでいました

彼自身による両親像は「暴力的な父親と病気がちな母親との不幸な結婚生活」として捉えられています.また14人いた兄弟も成人したのは彼を含めて7人に過ぎません.ただこれは当時の乳幼児死亡率50%とまったく一致したことであって,この不幸を現在の日本に置き換えて認識することはできません

幼いころから音楽的才能を示した彼は,父に音楽の勉強の機会を与えらえ,後援者の推薦もあり,15歳でウィーン音楽院のピアノ科主任のオーディションを受けました.そして見事ウィーン音楽院入学のチャンスをつかんだのです

音楽でのマーラー,絵画でのクリムト,精神医学でのフロイト,理論物理学のアインシュタインなど,同時代の「ドイツ語をしゃべるユダヤ人」の活躍には目を見張るものがあります.興味を惹かれるのは彼らの活躍だけではなく,人物像に魅力を感じて止みません

彼らの時代の直後にはナチスによるユダヤ人弾圧が訪れ,そして第二次世界大戦終了後にはユダヤ人の優位確保のため,軍事大国,経済大国としてイスラエルが台頭しました.しかし旧来のようなユダヤ人による芸術,学術部門での活躍が途絶えてしまったことが残念でなりません
  • マーラーの交響曲について
マーラー(47歳,1907年)
今回マーラープロジェクト名古屋管弦楽団がとりあげる「大地の歌」は,マーラーの9番目の交響曲にあたります.彼は生涯に11の交響曲(第10交響曲は未完ですが,これを含みます)を作曲しています.大地の歌は1907年から1909年にかけて作曲されています.順番としては第9交響曲にあたるのですが,大地の歌には第9交響曲と言う名称は用いませんでした.ベートーベンやブルックナーが交響曲を第9番まで作曲して亡くなったので,第9番を書くと自分も死ぬのではと言う恐怖にかられ,第9番と言う番号を避けたと言われています

前述しましたように私はクラッシク音楽に造詣が深いわけではありません.幼いころから耳にするクラッシクといえば音楽の授業で聞くもの,例えばベートーベンの「田園」,ドボルザークの「新世界」,シューベルトの「魔王」くらいでした.ギターマンドリン倶楽部に入部して,マンドリンと言う一応クラッシクの楽器の演奏に関わりを持つようになり,ギターマンドリン関係の音楽に馴染みを持つようになりましたが,なおマーラーと言う作曲家は知りませんでした

多分はじめてマーラーの音楽を耳にしたのは,勤務医になってから,25歳も過ぎたころです.その曲は第1交響曲「巨人」でした.第三楽章の最終部の葬送行進曲が消えてゆくように終わるやいなや,いきなりシンバルの一打ちに続いて管楽器とティンパニーの連打で始まる第四楽章に続きます.また第四楽章の中では,あえて起立してのトランペットの演奏があります.まさにマーラーの演出?にまんまとはまってしまった感じで,マーラーの魅力を知ることになりました

さて,そんな第1交響曲ですが,それでも従来のロマン派の作品と大きな差異は感じられません.ソナタ形式や7音階を利用したどこから聞いても理解しやすいデコレーションケーキのような音楽だと思います.ところが彼の音楽は第2交響曲「復活」で大きく変わってしまうのです.段々どこからみても形が整っているデコレーションケーキ様音楽から,全体として聴かないと正体が分からない,一部分だけを聴いていると奇妙で仕方ない,でもそれが魅力と言う音楽に変わって行った.そんな印象をわたしは彼の音楽に抱いています
  • 交響曲「大地の歌」について
第2交響曲から第8までは,それぞれ特色があるものの,若く勢いのある音楽と言うニュアンスが私には聞き取れます.もちろん「大地の歌」にも勢いのある楽章,部分もあるのですが,第六楽章「告別」に聴かれるように,器楽と声楽を使って枯れの中に死生観を描こうとするような,何と言えば良いのでしょうか,独特の境地を見出していると思います

大地の歌は,ハンス・ベートゲの翻訳(正確にはフランス語に訳された中国詩の重訳)による中国詩を題材として作られた管弦楽伴奏歌曲集です.交響曲の中で歌われている歌詞については,朋友の吉田友昭氏が訳詩と解説をしてみえるので,それをご覧ください

http://www008.upp.so-net.ne.jp/mahler_project/lyrics1.htm

題材として中国詩を扱っているだけではなく,音階もオリエンタリズムに溢れています.マーラーがどのようにして中国音楽を想像し取り入れていったのか分かりませんが,フルートなどの音を聴いていますと日本の邦楽を思わせるような節回しも各所に現れます.私にはそのように聴こえるのですが,いかがでしょうか.そのような音階表現に惹かれてならないのです.

「大地の歌」には中国詩による歌曲がついていますので,その訳詩を楽しみながらお聴きいただきますと,ますますマーラーの魅力に惹かれることと思います.約1世紀前に,どのようなことにマーラーが憧れを抱いていたのでしょう.

「死」や「告別」をモティーフにして作られたと言われ,ともすればマーラーの厭世的側面が描かれていると思いがちですが,わたしにはマーラーの憧れが描かれているように思える.
  • 参考図書  「マーラー」 村井 翔 著 音楽之友社 2004年
  • 参考CD "マーラープロジェクト管弦楽団 大地の歌演奏会 本番録音より 2006年10月8日
  • わたしの加齢に関する考察としてお勧めは・・・「思想 (岩波書店) 2006年第5号p4〜p25 老年論の原点─古代思想のなかの老年の哲学─瀬口昌久 」
アルトの三輪陽子先生 第二ヴァイオリンの後ろに配されたマンドリンの伊藤(中央)
指揮者の三澤洋史先生とコンマス高橋広さん(左側) 演奏後の拍手を受ける伊藤(ちょっと照れくさいですが記念に)



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